時代が変わる分岐点となった’97天皇賞(秋)
世の中にはエポックメインキングな出来事がある。Windows95の出現は、世界の工業社会が情報社会へ変遷するターニングポイントとなった。
野球でいえば、1995年の野茂英雄選手のメジャー挑戦、サッカーでいえば、1991年のJリーグ発足など、どの業界にも時代を変えるエポックメイキングが存在する。
そして、競馬のエポックメイキングのひとつが、エアグルーヴの天皇賞(秋)制覇である。異論は認めるが、頷いてくれる方も多いのではないだろうか。プリティキャスト以来、17年ぶりというのもそうだが、それよりも、彼女以降、牝馬が天皇賞を制するのが当たり前の時代になったという点が、まさにエポックメイキングなのだ。
エアグルーヴの勝利以降、ヘヴンリーロマンス、ウォッカ、ブエナビスタ、アーモンドアイが天皇賞を制している。また、この年エアグルーヴは年度代表馬に選ばれた。これは、トウメイ以来26年ぶりの牝馬の受賞となった。
そして、これも彼女以降、ウォッカ、ブエナビスタ、ジェンティルドンナ、アーモンドアイ、リスグラシューと牝馬の受賞は当たり前になった。
さらにいえば、札幌記念からの転戦で天皇賞(秋)を勝つというローテーションを確立したのもエアグルーヴだった。その後、ヘヴンリーロマンス、トーセンジョーダン、モーリスが現れ、札幌記念はスーパーGIIといわれるほど格を上げることになった。
エアグルーヴの天皇賞(秋)制覇を前後して、競馬シーンは明らかに変わった。時代を変えた変革者だった。
58キロの酷量もエアグルーヴはものともしない
エアグルーヴは、父トニービン、母ダイナカールという良血で、デビュー前から注目を集める存在だった。
関係者は、エアグルーヴが生を受けたその時から素質を感じており、伊藤雄二調教師はもの凄いインパクトを受けて、まだ仔馬だったエアグルーヴを1時間以上も眺めていたという。
デビュー戦では2着に負けたものの、2戦目の新馬→いちょうSを連勝。そのいちょうSでは、最後の直線で鞍上の武豊騎手が大きく立ち上がるほどの不利を受けながら、そこから態勢を立て直すて差し切る強い内容を見せ、武豊騎手が「普通の馬にはできない勝ち方」と言えば、伊藤雄調教師は「牡馬にも勝てると確信した」とコメントしている。
それを証明したのが、前記の天皇賞(秋)であり、6歳時の札幌記念である。
天皇賞(秋)を勝った後、エアグルーヴはジャパンCで2着、有馬記念と宝塚記念で3着と、牡馬に混じっても勝ち負けを繰り返していた。そして、宝塚記念の後に札幌記念への出走を決めた。
その札幌記念には、重賞勝ち馬が6頭いたものの、GIで勝ち負けしているようなライバルはおらず、エアグルーヴは単勝1.3倍の断然1番人気に押された。しかし、エアグルーヴが背負ったのはファンの期待だけでなく、58キロという酷量だった。牡馬に換算すれば60キロである。
ところが、エアグルーブにとって58キロなど敵ではなかった。しかも、勝ち時計は1.59.5という好時計。グレード制導入後で、札幌芝2000mで2分を切ったのは、グレートモンテ以来2頭目である。
さらに、58キロを背負った牝馬で重賞を勝ったのは、エアグルーブ以前にリキアイノーザンとヌエボトウショウしかいない。しかも、その2頭が勝ったのは牝馬限定重賞だった。牡馬混合の重賞で、58キロを背負って勝った牝馬はエアグルーブが初めてだった。そして、エアグルーブ以降は現れていない。
1998/12/27 中山 有馬記念 芝2500m 良 | 5着 | 武豊 54キロ 16頭 2人 2.32.9(7-7-6-6) グラスワンダー |
1998/11/29 東京 ジャパンC 芝2400m 良 | 2着 | 横山典 55キロ 15頭 2人 2.26.3(4-4-5-4) エルコンドルパサー |
1998/11/15 京都 エリザベス女王杯 芝2200m 良 | 3着 | 横山典 56キロ 14頭 1人 2.13.1(6-6-3-3) メジロドーベル |
1998/08/23 札幌 札幌記念 芝2000m 良 | 1着 | 武豊 58キロ 12頭 1人 1.59.5(5-5-5-2) (サイレントハンター) |
1998/07/12 阪神 宝塚記念 芝2200m 良 | 3着 | 武豊 56キロ 13頭 3人 2.12.1(6-6-8-7) サイレンススズカ |
1999/05/02 京都 天皇賞(春) 芝3200m 良 | 1着 | 武豊 56キロ 12頭 1人 3.15.3(3-3-3-2) (メジロブライト) |
1998/06/21 阪神 鳴尾記念 芝2000m 不 | 2着 | 武豊 57キロ 14頭 1人 2.04.1(9-10-8-2) サンライズフラッグ |
1998/04/05 阪神 大阪杯 芝2000m 良 | 1着 | 武豊 57キロ 9頭 1人 2.01.3(3-4-3-2) (メジロドーベル) |
1997/12/21 中山 有馬記念 芝2500m 良 | 3着 | ペリエ 55キロ 16頭 2人 2.34.9(5-5-3-2) シルクジャスティス |
1997/11/23 東京 ジャパンC 芝2400m 良 | 2着 | 武豊 55キロ 14頭 2人 2.25.8(4-4-4-3) ピルサドスキー |
1997/10/26 東京 天皇賞(秋) 芝2000m 良 | 1着 | 武豊 56キロ 16頭 2人 1.59.0(6-7-7) (バブルガムフェロー) |
1997/08/17 札幌 札幌記念 芝2000m 良 | 1着 | 武豊 55キロ 13頭 1人 2.00.2(7-6-8-4) (エリモシック) |
1997/06/22 阪神 マーメイドS 芝2000m 稍 | 1着 | 武豊 56キロ 13頭 1人 2.02.6(7-5-5-2) (シングライクトーク) |
1996/10/20 京都 秋華賞 芝2000m 良 | 10着 | 武豊 55キロ 18頭 1人 1.59.8(5-7-10-10) ファビラスラフィン |
1996/05/26 東京 オークス 芝2400m 良 | 1着 | 武豊 55キロ 18頭 1人 2.29.1(7-6-4-4) (ファイトガリバー) |
1996/03/02 阪神 チューリップ賞 芝1600m 稍 | 1着 | ペリエ 54キロ 14頭 2人 1.34.2(5-5-3) (ビワハイジ) |
1995/12/03 阪神 阪神3歳牝馬S 芝1600m 良 | 2着 | キネーン 53キロ 11頭 3人 1.35.4(2-2-2) ビワハイジ |
1995/10/29 東京 いちょうS 芝1600m 良 | 1着 | 武豊 53キロ 11頭 1人 1.35.8(2-4) (マウンテンストーン) |
1995/07/30 札幌 新馬 芝1200m 稍 | 1着 | 武豊 53キロ 7頭 1人 1.12.0(1-1) (ダイワテキサス) |
1995/07/08 札幌 新馬 芝1200m 良 | 2着 | 武豊 53キロ 9頭 1人 1.12.1(7-3) マイネルランサム |