エイシンバーリンに一目惚れしたあの日
競馬を始めたばかりの頃、心を奪われた馬がいた。
エイシンバーリンという芦毛の女の子だった。
たまたまだった。私はそのとき、東京競馬場にいた。オグリによる競馬ブームも一段落し、冬の東京競馬場は日曜日でもそれほど混んでいなかった。
私は、ぼちぼち馬券を買いながら、メインのクイーンCが始まる頃にはコースから若干離れた場所で観戦していた。オグリのおかげで競馬場の治安は良くなったが、それでもゴール前となれば、馬券をハズしたおやじ達の怒号で包まれる。それが嫌だった私は、コースから離れた場所でレースを見ていたのだ。
その勝ち馬がエイシンバーリン。颯爽と駆け抜ける芦毛の女の子に一目惚れした。
なんの準備もしていなかった。あの時の携帯電話じゃ写真なんか撮れなかったので、写真を撮ろうと思ったらカメラを持っていかなくてはならない。でも、荷物になるから持ち歩きたくない。だから、ちょっと競馬場行こうってなときにカメラなんか持っていくわけない。
なので、次に競馬場に行くときには、エイシンバーリンが出走する日を狙ってカメラを持っていこうと決めた。
私は関東圏に住んでいたので、できれば府中か中山がいい。なので、次走のアーリントンCは見送った。京都は遠い。
エイシンバーリンは外国産馬だったので、当時の規定でクラシックには出走できない。ということは、次は東京で行われるニュージーランドT(当時は東京芝1600m)ではないか。
心待ちにしていたのだが、彼女は骨膜炎を発症し、1年7カ月もの休養を余儀なくされる。当時はインターネットが出始めたばかりで、エイシンバーリンの情報を知るには「競馬ブック」や「競馬報知」しかなかったが、1年7カ月間、ほぼほぼ彼女の情報は掲載されなかった。ただただ、引退や病死の欄にバーリンの名前がないことだけを、毎週毎週確認するだけだった。
1分7秒の壁を破ったレースが人生最悪の後悔の日
彼女の復帰戦は、中山のオータムスプリントだった。知ってはいたが、私は用事があって行けなかった。バーリンは逃げることもできず7着に敗れた。
そして、復帰4戦目でキャピタルSを勝ったとき、ようやく本調子に戻ったと判断した私は、彼女のローテーションを自分なりに思い描いた。彼女に会いに行くために。
それが、京都牝馬特別→マイラーズC(or中山記念)→京王杯SC→安田記念というローテーションだった。
私が行けそうなのは、or中山記念と京王杯SC、安田記念の3つだ。どうせ行くなら勝つ姿を写真に撮りたかった。タイキブリザードやジェニュインが控える安田記念は、厳しいかもしれない。となれば、or中山記念か京王杯SCだ。
バーリンは京都牝馬特別を快勝し、次走は中山牝馬Sに決まった。どうしよう。早々に私が思い描いたローテーションは狂ってしまったわけだが、京王杯SC→安田記念というローテーションは堅いと思っていたし、中山牝馬Sでは重いハンデを課せられるだろうと思い、京王杯SC一本に絞った。
しかし、そこからのバーリンは、中京記念→シルクロードSという想定外のローテーションを選んできた。
2000mはさすがに長いだろうし、1200mは短いだろうとの思いと、名古屋と京都は遠い。やはり京王杯SCまで待つことにした。
シルクロードSには、一昨年のスプリンターズS覇者のヒシアケボノ、昨年のスプリンターズS覇者のフラワーパークという一流のスプリンターが集結しており、1200mが得意ではない(と個人的に思っていた)バーリンには苦しい戦いとなるのは想像に難くない。
私は、とにかく京王杯SCまで無事に走ってくれればいい、と気楽な気持ちでウインズのモニターを見上げていた。
シルクロードSのゲートを出たバーリンは、鞍上の南井騎手がスタート直後から押して押してハナに立つと、3F通過33.5秒という猛烈なハイペースで逃げる。フラワーパークとヒシアケボノが2番手を雁行し、それ以降の馬たちは、このハイペースについて行くだけで一杯になっている。
直線を向いてもバーリンの逃げ足は衰えない。やがてヒシアケボノが脱落し、フラワーパークはなんとか食らいついていたが息も絶え絶えだ。しかし、バーリンの逃げ足は衰えない。
バテるライバルたちを尻目に、バーリンはリードを広げていく。そしてゴールを迎えたとき、後続は4馬身も離れていた。さらに、1.06.9というスーパーレコードのおまけつき。日本の競馬史上、初めて1分7秒の壁を砕いたのだ。
日本の短距離王サクラバクシンオーでさえ辿り着けなかった景色に、私のバーリンが連れて行ってくれたのだ。
行っておけばよかった。
それから私は、名古屋までは遠征することにしたのだが、それ以降、バーリンが先頭でゴールを駆け抜けることはなかった。
後悔先に立たずとはよく言ったもので、私は一生後悔することになるのである。多少無理をしてでも、推せるときに推しておけ。教訓を得ることはできたが、あの輝かしいバーリンは、二度と戻ってこないのだ。
1998/12/20 中山 スプリンターズS 芝1200m 良 | 10着 | 熊沢 55キロ 15頭 5人 1.09.9(2-2) マイネルラヴ |
1998/11/28 中京 CBC賞 芝1200m 良 | 2着 | 南井 55キロ 14頭 1人 1.09.8(2-2) マサラッキ |
1998/10/31 京都 スワンS 芝1400m 良 | 2着 | 南井 55キロ 14頭 7人 1.21.9(1-1) ロイヤルスズカ |
1998/07/19 函館 函館SS 芝1200m 良 | 2着 | 南井 55キロ 13頭 2人 1.09.3(2-1) ケイワンバイキング |
1998/06/14 東京 安田記念 芝1600m 不 | 7着 | 福永 56キロ 17頭 10人 1.39.1(1-1) タイキシャトル |
1999/05/24 中京 高松宮記念 芝1200m 稍 | 3着 | 南井 55キロ 16頭 5人 1.09.2(1-1) シンコウフォレスト |
1998/04/26 京都 シルクロードS 芝1200m 良 | 5着 | 南井 56キロ 12頭 6人 1.09.0(2-3) シーキングザパール |
1997/12/14 中山 スプリンターズS 芝1200m 良 | 10着 | 吉田豊 55キロ 16頭 8人 1.09.5(1-1) タイキシャトル |
1997/11/22 中京 CBC賞 芝1200m 良 | 2着 | 南井 55キロ 15頭 2人 1.08.5(2-1) スギノハヤカゼ |
1997/10/25 京都 スワンS 芝1400m 良 | 7着 | 熊沢 55キロ 16頭 3人 1.21.3(1-1) タイキシャトル |
1997/09/28 阪神 セントウルS 芝1400m 良 | 11着 | 松永幹 58キロ 14頭 4人 1.21.6(1-1) オースミタイクーン |
1997/06/08 東京 安田記念 芝1600m 良 | 9着 | 吉田豊 56キロ 18頭 6人 1.34.6(1-1) タイキブリザード |
1997/05/18 中京 高松宮杯 芝1200m 良 | 2着 | 南井 55キロ 18頭 3人 1.08.2(2-2) ビコーペガサス |
1997/04/20 京都 シルクロードS 芝1200m 良 | 1着 | 南井 56キロ 16頭 8人 1.06.9(1-1) (ビコーペガサス) |
1997/03/16 中京 中京記念 芝2000m 稍 | 5着 | 幸 55キロ 16頭 7人 2.03.1(1-1-1-1) アロハドリーム |
1997/02/23 中山 中山牝馬S 芝1800m 良 | 11着 | 南井 56.5キロ 15頭 3人 1.50.4(2-3-3-3) ショウリノメガミ |
1997/01/26 京都 京都牝馬特別 芝1600m 良 | 1着 | 南井 56キロ 10頭 5人 1.35.4(1-1) (ヤマニンパラダイス) |
1996/12/15 阪神 阪神牝馬特別 芝1600m 良 | 7着 | 南井 55キロ 15頭 3人 1.36.0(4-3-2) ヒシナタリー |
1996/11/23 東京 キャピタルS 芝4600m 良 | 1着 | 角田 56キロ 14頭 3人 1.21.7(1-1) (ベストタイアップ) |
1996/11/02 東京 根岸S ダ1200m 不 | 12着 | 柴田善 55キロ 16頭 6人 1.12.3(10-11) ストーンステッパー |
1996/10/13 東京 府中牝馬S 芝1800m 良 | 5着 | 柴田善 55キロ 14頭 7人 1.46.5(1-1-1) サクラキャンドル |
1996/09/21 中山 オータムスプリントS 芝1200m 良 | 7着 | 柴田善 56キロ 11頭 2人 1.10.0(3-4) トーヨーロータス |
1995/02/26 京都 アーリントンC 芝1600m 良 | 1着 | 南井 54キロ 16頭 4人 1.34.3(1-1) (ダイタクテイオー) |
1995/01/29 東京 クイーンC 芝1600m 良 | 1着 | 南井 54キロ 9頭 3人 1.35.5(1-1) (プライムステージ) |
1994/12/24 中山 フェアリーS 芝1200m 良 | 2着 | 南井 53キロ 13頭 1人 1.09.3(3-2) プライムステージ |
1995/12/04 阪神 阪神3歳牝馬S 芝1600m 良 | 3着 | 南井 53キロ 10頭 2人 1.34.9(1-1-1) ヤマニンパラダイス |
1994/11/12 東京 京成杯3歳S 芝1400m 良 | 2着 | 南井 53キロ 11頭 1人 1.22.4(4-4) ゴーゴーナカヤマ |
1994/10/16 阪神 3歳新馬 芝1400m 良 | 1着 | 南井 53キロ 8頭 1人 1.21.6(1-1) (マイアミスピリッツ) |