【名馬コラム】カブトシロー　人気を裏切り続ける予想家泣かせ

人気を覆す奔放な競馬人生

“競馬新聞を読む馬”と呼ばれた。人気が出ると凡走し、人気がなくなると激走するカブトシローを、競馬ファンは親しみをこめてこう呼んだ。
カブトシローが1番人気、2番人気になったときの戦績は【0 1 2 10】（オープン平場をのぞく）で、うち4回がシンガリ負け。勝った重賞はカブトヤマ記念（7番人気）、天皇賞（秋）（8番人気）、有馬記念（4番人気）で、2着にきた重賞レースでもダイヤモンドＳが2番人気だっただけで、あとは3番人気以下である。ここまで徹底していると、人をおちょくっているとしか思えない。

とくに、6歳のときに勝った天皇賞（秋）では、カブトシローの関係者ですら彼の勝利は予想外だった。レース終了後、検量室ではカブトシロー関係者を探し回るJRA職員でごった返し、カブトシローの優勝ゼッケンも用意されていなくて、てんやわんやの修羅場だったそうだ。

それも、前哨戦の目黒記念でシンガリ負け、その前のステイヤーズＳでも人気を裏切る6着敗退と精彩を欠いていたからだ。
そして、人気をなくして激走するのがカブトシローだった。

スキャンダルをも自身の力に変えた強い精神力

カブトシローを語るとき、必ず取り沙汰されるのが「山岡事件」と呼ばれる八百長事件と、金銭トレードスキャンダルである。いずれも馬に責任はない人災なのだが、短い競馬人生で2つのスキャンダルを抱えてしまったのは後にも先にもカブトシローだけだ。

ところが、カブトシローはこうしたスキャンダルにまみれても、強い精神力で乗り切っていった。八百長レースといわれた4歳時のたちばな賞。それまで新馬で勝ち上がって以降連対すらなかったカブトシローが見事に勝ち切った。八百長だったとわかって人気を落としたカブトヤマ記念で、それを払拭する走りで見事に初重賞制覇。

金銭トレードで馬主が変わった6歳。前馬主をあざ笑うかのように、天皇賞（秋）と有馬記念を連勝してしまった。
人の思惑を裏切り続けたカブトシローは、単に競馬新聞を読めただけでなく、一般紙まで読んでいたと言われたものだ。

重賞勝ちは前記の3鞍。戦績だけ見れば、超一流馬とはいえない、二流のＧ1馬である。それでも今なお、名馬として名が挙がるのは、彼の人生が波乱に満ちたものでありながら、自らの力ですべてを払拭し勝ち取ったからだ。カブトシローの精神力に勝てる馬など、未来永劫現れないだろう。