いつでもどこでも逃げる逃げる
ナルシスノワールを名馬というと違和感があるだろう。じつは私もそうだ。ただ、私のなかでは名馬の1頭である。
ナルシスノワールといわれても、今の競馬ファン(ばかりかオールドファンでも)にはなかなかピンとこないと思われる。
ナルシスは逃げ馬である。ただ、普通の逃げ馬ではない。先頭を走ることは多かったが、先頭を走らなくても逃げていた、珍しい馬である。
ナルシスは、周りのペースに惑わされることがなかった。いつでもマイペースで、決して自分のペースを崩さなかった。だから、いつでも逃げていた。
1992年のスプリンターズS(G1)。サクラバクシンオーがハイペースで逃げ、それをユウキトップランとトモエリージェントが追いかけた。ナルシスは彼らの後ろを、いつものようにマイペースで逃げていた。
バクシンオーの逃げは暴走気味のハイラップ。ユウキとトモエが突っついたため、先行3頭は早い段階で脱落した。ナルシスも、その暴走ペースに巻き込まれたように見えたのだが、彼にとってはマイペースだったようだ。
脱落する3頭をしり目に先頭に立ったナルシスが、ついに念願のG1制覇かと思ったのだが、ゴール前でニシノフラワーとヤマニンゼファーにかわされ惜しくも3着。12番人気の低評価を覆して、スプリンターの資質をまざまざと見せつけた。
スプリンターズSの申し子
ナルシスの勝った重賞は、マイルの東京新聞杯(G3)、1800mのスプリングS(G2)。1400mのスワンS(G2)の3つである。
これだけ見ると、ナルシスはマイラーだ。とくに、ダイナマイトダディになにもさせなかった東京新聞杯の勝ちっぷりを見ると、マイラーとしての説得力はあるかもしれない。
しかし、ナルシスの本質はスプリンターである。
その真骨頂は、毎年暮れに中山競馬場で行われていたスプリンターズS(G1)で発揮された。当時は、1200mのG1は暮れのスプリンターズSだけだったので、各スプリンターは年間を通してここを大目標にしていた。そのため、毎年ハイレベルなメンバーが揃った。
ナルシスは生涯3度スプリンターズSに出走しているが、そのいずれも同じペースで走り続ける。というより、ナルシスの1200mのラップはいつも同じなのである。前半32秒台前半のハイペースが、ナルシスのマイペースだった。
ナルシスの不運は、同時代にバンブーメモリー、ダイイチルビー、ニシノフラワーといった超強力なスプリンターがいたことである。ナルシスは、超A級の追い込み馬に弱かった。それは、自分で作り出したハイペースが、彼らの追い込みを助けることにつながったからだ。
しかし、それでも2着、3着、4着。人気で見ると、順に11番人気、12番人気、8番人気である。
今のように、春にもスプリントの祭典があれば、もっともっと評価は高かったと思うと残念でならないし、現代のサラブレッドは恵まれていると思うのだ。
1993/04/04 中山 ダービー卿CT 芝1200m 良 | 10着 | 西浦 58キロ 11頭 5人 1.10.4(2-4) トモエリージェント |
1993/02/28 阪神 マイラーズC 芝1600m 良 | 10着 | 西浦 58キロ 12頭 5人 1.38.6(1-1-1) ニシノフラワー |
1992/12/20 中山 スプリンターズS 芝1200m 良 | 3着 | 西浦 57キロ 16頭 12人 1.08.0(4-4) ニシノフラワー |
1992/07/05 札幌 札幌記念 芝2000m 良 | 11着 | 村本 58キロ 13頭 8人 2.03.1(3-4-5-8) サンエイサンキュー |
1992/05/17 東京 安田記念 芝1600m 良 | 12着 | 柴田善 57キロ 18頭 9人 1.35.0(4-5) ヤマニンゼファー |
1992/04/05 中山 ダービー卿CT 芝1200m 不 | 3着 | 柴田善 58キロ 9頭 1人 1.11.7(2-2) トモエリージェント |
1992/03/01 阪神 マイラーズC 芝1600m 良 | 5着 | 安田隆 58キロ 11頭 3人 1.37.5(3-2-2) ダイタクヘリオス |
1992/02/09 東京 東京新聞杯 芝1600m 良 | 1着 | 菅原 58キロ 10頭 4人 1.34.4(2-2) (ダイナマイトダディ) |
1992/01/12 京都 洛陽S 芝1600m 良 | 6着 | 安田隆 60キロ 16頭 6人 1.35.2(1-1) エイシンウイザード |
1991/12/15 中山 スプリンターズS 芝1200m 良 | 2着 | 菅原 57キロ 16頭 11人 1.08.3(4-4) ダイイチルビー |
1991/11/17 京都 マイルCS 芝1600m 良 | 12着 | 角田 57キロ 15頭 13人 1.36.9(4-2) ダイタクヘリオス |
1991/06/02 阪神 阪急杯 芝1400m 不 | 取消 | 安田隆 59キロ 14頭 人 – ジョーロアリング |
1991/05/12 東京 安田記念 芝1600m 良 | 5着 | 安田隆 57キロ 16頭 15人 1.34.2(3-4) ダイイチルビー |
1991/02/24 阪神 マイラーズC 芝1600m 良 | 5着 | 南井 57キロ 13頭 2人 1.42.3(3-3-3-3) ダイタクヘリオス |
1990/12/16 中山 スプリンターズS 芝1200m 良 | 4着 | 菅原 57キロ 16頭 8人 1.08.3(2-2) バンブーメモリー |
1990/11/18 京都 マイルCS 芝1600m 良 | 15着 | 安田隆 57キロ 18頭 6人 1.35.3(1-2) パッシングショット |
1990/10/28 京都 スワンS 芝1400m 良 | 1着 | 安田隆 58キロ 16頭 5人 1.21.4(1-1) (パッシングショット) |
1990/09/09 中京 セントウルS 芝1200m 良 | 4着 | 田之上 58キロ 11頭 4人 1.08.6(1-1) エーコーシーザー |
1990/06/24 中京 CBC賞 芝1200m 良 | 7着 | 田之上 57キロ 16頭 2人 1.09.4(2-3) パッシングショット |
1990/06/03 阪神 阪急杯 芝1400m 良 | 5着 | 田之上 57キロ 18頭 9人 1.22.5(2-2) センリョウヤクシャ |
1990/03/24 阪神 コーラルS 芝1400m 良 | 4着 | 武豊 58キロ 11頭 3人 1.22.8(2-1) ラッキーゲラン |
1990/02/25 阪神 マイラーズC 芝1600m 重 | 5着 | 武豊 56キロ 12頭 2人 1.37.0(2-2-1) メジロワース |
1990/02/04 阪神 仁川短距離S 芝1200m 不 | 1着 | 武豊 56キロ 10頭 1人 1.10.3(2-2) (タイレグルス) |
1989/12/17 中京 CBC賞 芝1200m 良 | 3着 | 田之上 55キロ 16頭 10人 1.09.4(2-1) ミスティックスター |
1989/11/19 京都 マイルCS 芝1600m 良 | 14着 | 松永幹 55キロ 17頭 10人 1.36.9(5-5) オグリキャップ |
1989/10/29 京都 スワンS 芝1400m 良 | 13着 | 芹沢 56キロ 16頭 7人 1.23.9(1-2) バンブーメモリー |
1989/05/06 東京 菖蒲S 芝1400m 良 | 1着 | 菅原 58キロ 9頭 3人 1.23.6(1-1) (オンワードチエ) |
1989/04/16 中山 皐月賞 芝2000m 不 | 9着 | 菅原 57キロ 20頭 6人 2.06.4(2-2-2-1) ドクタースパート |
1989/03/26 中山 スプリングS 芝1800m 良 | 1着 | 菅原 56キロ 14頭 5人 1.49.8(1-1-1-1) (ドースクダイオー) |
1989/03/05 阪神 ペガサスS 芝1600m 重 | 2着 | 芹沢 55キロ 14頭 9人 1.37.7(2-1-1) シャダイカグラ |
1989/02/19 京都 こぶし賞 芝1600m 稍 | 1着 | 武豊 55キロ 14頭 5人 1.37.5(1-1) (ナナヨーアトラス) |
1989/01/29 京都 つばき賞 芝2000m 稍 | 失格 | 田之上 55キロ 13頭 5人 –(4-4-3-3) タマモベイジュ |
1989/01/15 京都 シンザン記念 芝1600m 良 | 9着 | 田之上 55キロ 16頭 9人 1.37.9(3-5) ファンドリポポ |
1988/12/24 阪神 新馬 芝1400m 良 | 1着 | 田之上 54キロ 13頭 1人 1.24.3(1-1) (ミスファンドリ) |
1988/12/10 阪神 新馬 芝1200m 良 | 3着 | 田之上 54キロ 14頭 6人 1.11.9(3-3) ダイイチポーラ |