幸騎手と歩み始めた三冠への道
競馬ファンにとって、三冠馬という響きは格別のものがある。ファン歴20年を超える私も、やはり三冠馬への思い入れは強い。
私がリアルタイムで目撃した最初の三冠馬は、ナリタブライアンだった。わざわざ京都まで菊花賞を見に行ったこともあり、ブライアンへの思い入れも強い。
しかし、それより私の琴線に触れた三冠馬は、スティルインラブなのだ。それが何故なのか、あまり意識したことはなかったのだが、改めて考えてみると、競馬ファン歴も成熟度を増したこともあって、そこに人間模様を見たからだという結論に達した。もちろんブライアンにだって人間模様はある。ただ、ブライアンの菊花賞の頃は、ただ単純に強い三冠馬に感動していただけだった。
スティルインラブの鞍上は、デビュー10年目の幸騎手。まだGIも勝っておらず、私の中ではまだ若手のちょっと上くらいの印象だった。また、イケメンだったこともあり、妬みも含めて鼻持ちならない感じもあり、今考えると非常に申し訳ない印象を持ち続けていた。
スティルインラブは、デビュー戦→紅梅Sを連勝し、1番人気でチューリップ賞に臨んだ。しかし、直線で内で詰まってオースミハルカの2着に敗退。桜花賞の権利は手にしたものの、幸騎手の騎乗技術に批判が集まった。私も、本番では乗り替わりだろうなと思っていた。
ところが、継続騎乗で幸騎手とスティルインラブは桜花賞に出走してきた。私は、ここで考えたのだ。きっとオーナーのノースヒルズ側は幸騎手の降板を申し出た。しかししかし、松元省一調教師は、もう1回だけ幸にチャンスを与えてほしいと懇願した。そしてそして、ノースヒルズもこれを承諾したのではないかと。
これは、当時の私の妄想だったが、後年彼らのインタビュー記事などを読んで、私の妄想が当たっていたことを知った。そうだよ! これこそ人間模様というやつだ!
幸騎手は、「このときの桜花賞くらいプレッシャーを感じたレースはなかった」と述懐しており、桜花賞を制したことで一皮むけた。ここから、彼らの三冠ロードが始まるのである。
高レベル世代のライバルたちを一蹴し、夢の三冠制覇
オークスを制して二冠馬となったスティルは、充実の夏を過ごして秋に復帰するはずだった。
ところが、戻ってきたスティルは、幸騎手曰く「耳を絞るようになって反抗的」になっていた。不安は的中し、ローズSは人気を裏切る5着敗退。三冠に黄信号が灯った。
いよいよ本番の秋華賞。二冠馬なのに2番人気という屈辱ではあったが、ローズSの結果を見るとそれも致し方なかった。しかし、ひと叩きしたスティルはレースでは違った。外々を回る厳しい展開だったが、宿敵のアドマイヤグルーヴを3/4馬身差退けて、スティルは見事に三冠の栄光を掴んだのである。
「スティルに勝たせてもらったレースばかりだった」と幸騎手はコメントしている。しかし、私はそうは思わない。幸騎手じゃなかったから、きっと三冠は獲れなかった。ずーっと調教をつけて、片時も離れることなく一緒に歩んできたからこその三冠だったと思うのだ。それが人間模様だし、馬模様。
「スティルがいなければ、今の俺はない」という幸騎手の言葉は本音だろうと思う。しかしながら、「幸がいなければ、私の三冠はない」とスティルも思っていることだろう。
スティルは、その後勝てなかった。しかし、決して弱い世代のお山の大将ではない。デビュー戦では、その後天皇賞(秋)を制するヘヴンリーロマンスを負かしているし、三冠ロードで負かした馬たちも、古馬になって重賞を勝つ馬がたくさんいた。
スティルインラブは、めちゃくちゃ強い世代の三冠馬なのだ。
2005/10/16 東京 府中牝馬S 芝1800m 稍 | 17着 | 幸 57キロ 17頭 5人 1.48.2(15-16-14) ヤマニンアラバスタ |
2005/06/26 阪神 宝塚記念 芝2200m 良 | 9着 | 幸 56キロ 14頭 9人 2.12.7(15-15-15-15) スイープトウショウ |
2005/05/28 中京 金鯱賞 芝2000m 良 | 6着 | 四位 56キロ 10頭 4人 1.59.5(9-8-5-5) タップダンスシチー |
2004/11/14 京都 エリザベス女王杯 芝2200m 良 | 9着 | 幸 56キロ 18頭 3人 2.14.3(5-6-7-7) アドマイヤグルーヴ |
2004/10/17 東京 府中牝馬S 芝1800m 良 | 3着 | 幸 57キロ 16頭 1人 1.46.4(5-5-5) オースミハルカ |
2004/07/18 小倉 北九州記念 芝1800m 良 | 12着 | 幸 58キロ 13頭 4人 1.45.3(2-2-2-3) ダイタクバートラム |
2004/06/27 阪神 宝塚記念 芝2200m 良 | 8着 | 幸 56キロ 15頭 8人 2.12.6(12-12-12-10) タップダンスシチー |
2004/05/29 中京 金鯱賞 芝2000m 良 | 8着 | 幸 57キロ 12頭 5人 1.59.1(7-7-7-6) タップダンスシチー |
2003/11/16 京都 エリザベス女王杯 芝2200m 良 | 2着 | 幸 54キロ 15頭 1人 2.11.8(6-6-6-6) アドマイヤグルーヴ |
2003/10/19 京都 秋華賞 芝2000m 良 | 1着 | 幸 55キロ 18頭 2人 1.59.1(10-10-8-6) (アドマイヤグルーヴ) |
2003/09/21 阪神 ローズS 芝2000m 良 | 5着 | 幸 55キロ 12頭 1人 2.02.0(3-3-4-3 ) アドマイヤグルーヴ |
2003/05/25 東京 オークス 芝2400m 良 | 1着 | 幸 55キロ 17頭 2人 2.27.5(9-9-9-9) (チューニー) |
2003/04/13 阪神 桜花賞 芝1600m 良 | 1着 | 幸 55キロ 17頭 2人 1.33.9(4-5-3) (シーイズトウショウ) |
2003/03/08 阪神 チューリップ賞 芝1600m 稍 | 2着 | 幸 54キロ 16頭 1人 1.36.0(6-6-6) オースミハルカ |
2003/01/19 京都 紅梅S 芝1400m 良 | 1着 | 幸 54キロ 15頭 2人 1.22.1(8-8) (モンパルナス) |
2002/11/30 阪神 新馬 芝1400m 良 | 1着 | 幸 53キロ 16頭 1人 1.22.2(2-2) (キタノスザク) |